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教育の職人のぶさんの、国語教育とカウンセリングとグループワークとキャリア教育、長年鍛えた職人技をお目にかけます。
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いきなり、この小説を書こうか書くまいかという、筆者の逡巡から始まる。かなり奇をてらった大胆な手法である。この奇襲は、かなりのレベルの小説でなければ成功しない。そしてこの小説は、遥かそのレベルを越えていた。面倒くさがりの私が二度も読んだほどだ。
 「アサッテの人」である叔父は、エレベーター管理会社に勤めるの平凡なサラリーマンである。失踪したのは平凡とは言い難いが、その理由が愛妻を亡くしたという有り勝ちな理由である。甥である僕は廃墟と化した叔父のアパートに叔父を探しに行く。そこで見つけたものは、本の山の中にあった叔父と愛妻の日記であった。
 愛妻の日記によると、叔父は日常会話の中で、何の脈絡もなく突然「ポンパ!」と叫ぶ。嵩じると、「ボンパる」「ポンパれ」「ポンパに属している」「ポンパ的な」などと、バリエーション豊かに「ポンパ」を連発する。「ポンパ」だけでなく、他にも「チリパッパ」「タポンテュー」「ホエミャウ」などを会話の間に挿入する。これらの言葉は、世界中のどんな辞書をひもといても出て来ない、意味不明の言葉である。
 この言葉の意味を解明する人物がいる。叔父が監視するエレベーター内のモニターにしばしば登場する「チューリップ男」と叔父が命名した中年の冴えない会社員である。彼は一人でエレベーターに乗る時、両手を頭の上に広げてチューリップの形を作ったり、コサックダンスを踊り出したり、ズボンを下げて下半身を露出してみたりする。それでいて、顔見知り女の子と乗り合わせた時は、「いい定食屋があるんだけど一緒にどう」という感じで昼食に誘う常識人である。
 つまり、彼らが試みようとしているのは、例えば、五・七・五の定律俳句に対する、尾崎放哉や種田山頭火のような自由律俳句ではなく、字余りの俳句のようなものである。息苦しい平凡な日常を完全に破壊するのでなく、むしろ日常の凡庸さを必要以上に意識して背負い込み、日常の通念とは圧倒的に無関係な言葉を発することで、そこに小さな風穴を開けて、深呼吸をするのである。「アノヨ」までは行かず「アサッテ」へワープするのである。この時代、「ポンパ!」と叫びたくなる人は多いのではないか。少なくとも僕もその一人だ。時代の空気を、大上段から振りかぶるのではなく、人の心の底から見事に抉り取った小説である。
 そして、「アサッテの人」である叔父は、小説の最後まで登場しない。
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