教育の職人のぶさんの、国語教育とカウンセリング(公認心理師)、グループワークとキャリア教育、長年鍛えた職人技をお目にかけます。
1つ目の質問の焦点は「R博士の人物像」である。
小説において、登場人物の人物像を読解するのは基本である。
次の部分から、質問づくりをする。
R博士はドイツ人で、ライン流域のデュッセルドルフの人である。永くイタリーに定住し、そのおびただしい著作の数は、古代彫刻の権威の名に背かない。
八十三歳の博士は今、臨終の床にある。しかし病褥に近づくことを許されているのは、美術愛好家の若い真摯な医者N博士一人である。
R博士の住居は、ローマ市ルドヴィシ通りにある。ここは古ローマの都門を残すボルゲーゼ公園に近い閑静な一画で、博士のアパートメントは四階の三部屋にわたっていた。
ローマの五月は暖かいというよりも、暑いと言ったほうが適当なほどである。強烈な明るさが遍満し、人々は街路樹の深い木陰を選んで歩く。蜜柑水を売る者が町角に車を出し、空は終日雲の陰をとどめない。廃墟の上にはおびただしい燕がとびかわし、幾多の古い泉は豊かな清水を装飾の彫像の全身に浴びせている。博士の住居の近くにはローマの泉の源といわれるトリトンの泉がある。また名高いトレヴィの泉に、ローマ離京の前夜貨幣を投げる者は、生涯のうちに再びローマを訪うめぐりあわせになるという口碑がある。
博士はこの泉に貨幣を投げたことは一度もない。その必要を認めなかったからである。ローマを終生離れない運命を自ら選んでいたからである。
病室の窓には午後の日が真っ向から射している。日覆いが下ろされて、室内は暗い。しかし枕もとの水差しの水はたちまちぬるみ、博士の額には汗が拭われるそばから微かににじんだ。
死に瀕している荘厳な顔は、強い髯の中に埋もれている。深い皺も、高い倨傲な鼻も、落ちくぼんだ眼窩の底に微光を放っている瞳も、大地の起伏を圧縮したように静かである。近づいている死の兆しの、もっとも明瞭に刻まれた部分がある。それは胸の上に置かれた手である。弾力を失った静脈が、手の甲を縦横に走っている。しみの多い白い皮膚がこの静脈の形を、無力に、しかし正確になぞっている。この形骸だけになった手の内部には、生命はすでに失われているように思われる。
読み取らせたい部分は下線部である。そこを問う質問を作らせたい。
生徒が作った質問は次の通り。
番号 レベル 質問
1 2 Rは何の略か。
2 1 出身はどこか。
3 4 何人か。
4 3 住居はどこか。
5 1 長く定住した場所は。
6 1 アパートは何階か。
7 1 住居の近くにある泉は。
8 1 なぜトレヴィの泉に貨幣を投げなかったのか。
9 1 (泉に)投げるものは何を投げ、何を望んでいるのか。
10 4 なぜ終世ローマを離れない運命を選んだのか。
11 3 顔が書けるか。
12 1 顔の特徴は。
13 3 どのような状態か。
14 4 病名は。
15 3 生命はすでに失われているとはどういうことか。
16 1 最も死の兆しを表している身体の部分はどこか。
17 3 R博士の手とは。
18 1 手はなぜ(死を)明瞭に刻んでいるのか。
19 4 病室の窓はどの方角にあるか。
20 1 博士の病褥に近づくことを許されているのは誰か。
21 4 なぜ病褥に近づくことが許されているのはN博士だけなのか。
レベルについては不適切なものが多いが、
「2・3出身」や「4・5定常場所」や「12顔の特徴」は期待していた質問である。
「8なぜ貨幣を投げなかったのか」は聞きたくなる質問だが、定住の覚悟を問うだけの質問で、さほど重要ではない。
欠けている質問は、「何歳か」「仕事は」である。年齢が83歳であることは、博士が臨終間近であることを読解するのに必要だ。仕事が古代彫刻の権威であることは、イタリアに定住を決意した事と関連する。これを【L3】に転換すると「なぜイタリアに定住を決意したのか」になる。
そんなことを解説しながら、板書してまとめる。
登場人物
●R博士
○ドイツ人
↓
・イタリアに定住
・トレヴィの泉に貨幣を投げ込まない
・ローマを終生離れない運命を選ぶ
↓
・古代彫刻の権威
○八十三歳
↓
・臨終の床にある
○荘厳な顔
小説において、登場人物の人物像を読解するのは基本である。
次の部分から、質問づくりをする。
R博士はドイツ人で、ライン流域のデュッセルドルフの人である。永くイタリーに定住し、そのおびただしい著作の数は、古代彫刻の権威の名に背かない。
八十三歳の博士は今、臨終の床にある。しかし病褥に近づくことを許されているのは、美術愛好家の若い真摯な医者N博士一人である。
R博士の住居は、ローマ市ルドヴィシ通りにある。ここは古ローマの都門を残すボルゲーゼ公園に近い閑静な一画で、博士のアパートメントは四階の三部屋にわたっていた。
ローマの五月は暖かいというよりも、暑いと言ったほうが適当なほどである。強烈な明るさが遍満し、人々は街路樹の深い木陰を選んで歩く。蜜柑水を売る者が町角に車を出し、空は終日雲の陰をとどめない。廃墟の上にはおびただしい燕がとびかわし、幾多の古い泉は豊かな清水を装飾の彫像の全身に浴びせている。博士の住居の近くにはローマの泉の源といわれるトリトンの泉がある。また名高いトレヴィの泉に、ローマ離京の前夜貨幣を投げる者は、生涯のうちに再びローマを訪うめぐりあわせになるという口碑がある。
博士はこの泉に貨幣を投げたことは一度もない。その必要を認めなかったからである。ローマを終生離れない運命を自ら選んでいたからである。
病室の窓には午後の日が真っ向から射している。日覆いが下ろされて、室内は暗い。しかし枕もとの水差しの水はたちまちぬるみ、博士の額には汗が拭われるそばから微かににじんだ。
死に瀕している荘厳な顔は、強い髯の中に埋もれている。深い皺も、高い倨傲な鼻も、落ちくぼんだ眼窩の底に微光を放っている瞳も、大地の起伏を圧縮したように静かである。近づいている死の兆しの、もっとも明瞭に刻まれた部分がある。それは胸の上に置かれた手である。弾力を失った静脈が、手の甲を縦横に走っている。しみの多い白い皮膚がこの静脈の形を、無力に、しかし正確になぞっている。この形骸だけになった手の内部には、生命はすでに失われているように思われる。
読み取らせたい部分は下線部である。そこを問う質問を作らせたい。
生徒が作った質問は次の通り。
番号 レベル 質問
1 2 Rは何の略か。
2 1 出身はどこか。
3 4 何人か。
4 3 住居はどこか。
5 1 長く定住した場所は。
6 1 アパートは何階か。
7 1 住居の近くにある泉は。
8 1 なぜトレヴィの泉に貨幣を投げなかったのか。
9 1 (泉に)投げるものは何を投げ、何を望んでいるのか。
10 4 なぜ終世ローマを離れない運命を選んだのか。
11 3 顔が書けるか。
12 1 顔の特徴は。
13 3 どのような状態か。
14 4 病名は。
15 3 生命はすでに失われているとはどういうことか。
16 1 最も死の兆しを表している身体の部分はどこか。
17 3 R博士の手とは。
18 1 手はなぜ(死を)明瞭に刻んでいるのか。
19 4 病室の窓はどの方角にあるか。
20 1 博士の病褥に近づくことを許されているのは誰か。
21 4 なぜ病褥に近づくことが許されているのはN博士だけなのか。
レベルについては不適切なものが多いが、
「2・3出身」や「4・5定常場所」や「12顔の特徴」は期待していた質問である。
「8なぜ貨幣を投げなかったのか」は聞きたくなる質問だが、定住の覚悟を問うだけの質問で、さほど重要ではない。
欠けている質問は、「何歳か」「仕事は」である。年齢が83歳であることは、博士が臨終間近であることを読解するのに必要だ。仕事が古代彫刻の権威であることは、イタリアに定住を決意した事と関連する。これを【L3】に転換すると「なぜイタリアに定住を決意したのか」になる。
そんなことを解説しながら、板書してまとめる。
登場人物
●R博士
○ドイツ人
↓
・イタリアに定住
・トレヴィの泉に貨幣を投げ込まない
・ローマを終生離れない運命を選ぶ
↓
・古代彫刻の権威
○八十三歳
↓
・臨終の床にある
○荘厳な顔
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