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教育の職人のぶさんの、国語教育とカウンセリング(公認心理師)、グループワークとキャリア教育、長年鍛えた職人技をお目にかけます。
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4時間計画の最後の授業。
 今回は、質問づくりではなく、討議をした。
 テーマは、やはり気になる、 像の高さについて。考えられることは3つある。R博士やN博士が測り間違えたというオチはないものとする。

 ア. 二・一四mだったが、二・一七mに成長した。
  ・R博士が測定したときは確かに、二・一四mだった。伸びるはずのない大理石像の身長が伸びたのは不 
  思議で説明できないが、それは「神」のなせる技。R博士を裏切って秘密を反故にして身長を伸ばした。
 イ.初めから二・一七mであった。
  ・R博士が死ぬ間際に精神の錯乱を起こして、ありもしない秘密の話を捏造した。
  ・R博士が測定したときも二・一七mであったが、誤測させた。その段階でアフロディテ像が裏切ったことに
   なる。
 ウ. 二・一四メートルであった。
  ・N博士がアフロディテ像の魅力にとりつかれて、R博士から奪うために嘘をついた。この場合、裏切ったの
   はN博士になる。アフロディテ像の共謀も考えられる。
 エ.その他
  ・生徒からは、R博士の部屋にある像は偽物という説があったが、これもオチ程度の発想になる。発掘者で   権威のR博士が、臨終の床にあるとしても、見抜けないはずはない。

 いつもの4人チームになって、チームの合意で答えを選択し、その理由を書く。また、そうなった場合の主題も考え、A4の用紙に書く。それらを黒板にマグネットで貼る。発表させ、みんなで検討する。

授業を終えて
3年生の最後の授業でした。生徒の反応は上々、よく活動しました。一斉授業なら寝てしまう生徒や板書を写すだけの生徒が多い中で、よく集中してくれたと思います。生徒の感想もそのようなことか書いてありました。
ただ、内容の読解が深まったかどうかはやや?だ。最後の時間に注目してほしかったのは、質問の焦点2「アフロディテ像」の「それがあたかも病床の博士を、冷ややかに見下ろしているように見えるのである」だったのだが、それに触れたチームは2クラスともなかった。
「質問づくり」の授業は、確かに1つの手法としては面白い。ただ、質問をつくったあと、その質問をどうするかが問題である。ルーティンの授業では、その質問について考察を加えていくのは進度の観点から難しい。時間がかかりすぎる。それでなくても、質問の焦点を厳選に厳選を重ねている中で、これ以上時間をかけるわけにはいかない。『たった一つを変えるだけ』に紹介されていた事例とは異なる次元の展開を考えなければならない。
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3つ目の質問の焦点。これが問題だ。
以降の展開は次のようになる。

 R博士は、N博士に命じて、他の研究者の著書の、像の高さの部分だけを読ませる。どの著書にも、R博士の著書と同様に2.17mと記されていた。それを聞いてR博士は、「いいしれぬ嘲りと陶酔の表情」をして、「恐ろしい笑い」を笑った。なぜなら、「アフロディテの魅惑の虜」になった博士は、「彼女と個人的な秘密」を分かちたくなり、実際は2.14mだった像の高さを3㎝多く2.17mと公表すたという「自ら好んで犯した過ち」を打ち明ける。他の研究者は、R博士の公表を鵜呑みにしていたことを嘲り、秘密を守り通せたことに陶酔して、恐ろしい笑いを笑ったのである。そして、N博士に命じて、測り方まで指示して像の高さを測らせる。ところが、N博士の答えは「ちょうど二・一七メートルです。」だった。R博士は、蒼ざめて、はや頬が引きつり、錯乱し、怨嗟の目で像を見ながら、「裏切りおったな。」と言って息を引き取る。N博士は、「R博士が真実を語ったとすれば、像はおのずから3㎝だけ育ったのである」から、故しらぬ恐怖に打たれるが、R博士が死を直前にして錯乱して嘘を言ったと解釈して安堵する。そして、異教徒として死んだR博士のために祈った。


さて、どこを質問の焦点にするか。
「恐ろしい笑い」や「嘲りと陶酔」にすると、裏切られるところまで考えが行かない。「個人的な秘密」にしても同様である。
「裏切りおったな」がよさそうに思ったが、像の高さが3㎝伸びたことが前提になる。
そこで考えたのが、「ちょうど、2.17mです」だ。これだと、高さが2.14mである可能性も残しているので、質問のバリエーションは大いに広がる。
実際にここまで考えなければ、「質問づくり」の授業は薄っぺらなものになる。
生徒の考えた質問は次の通り。

番号 レベル 質問
1 R博士とアフロディテ像と以外知らない秘密とは。
2 R博士はアフロディテ像を何mだと思っていたのか。
3 最初に「何mだ」と聞いた時のR博士の心情は。
4 なぜR博士はN博士に2回も測らせたのか。
5 1 二度測っても2.17mと告げられて時のR博士の心情を述べよ。
6 R博士が青ざめて叫んだのはなぜか。
7 R博士の恐ろしい顔を図示せよ。
8 「ちょうど2.17mです」と言った時のN博士の心情を述べよ。
9 Nが恐怖に打たれたのはなぜか。
10 測られている時のアフロディテ像の気持ちは。
11 アフロディテ像を測ったのは誰か。
12 N博士が測定した時点で像の高さは何mだったのか。
13 1 本当に2.17mなのか。
14 像の測り方は同じか。
15 なぜR博士は像の高さを測り間違えたのか。
16 1 R博士はなぜ2.17mであるという嘘をついたのか。
17 4 なぜアフロディテ像は3㎝伸びていたのか。
18 4 アフロディテ像は身長が伸びた、それとももとから。
19 2 なぜ2.17mという中途半端な高さなのか。
20 4 由紀夫は何を伝えたかったか。

当然、本当の高さを問う質問は出る。
R博士の心情だけでなく、N博士の心情まで質問している。
20のようにずばり主題を突いた秀逸な質問も生まれた。
板書は次の通り。

1.R博士の故意の過ち
 ・実際=二・一四メートル
 ・公表=二・一七メートル
 ・像の高さ三センチ多く公表した。
   ↓ 
 ・彼女との秘密
2.嘲りと陶酔
  ・嘲り=多くの学者が自測せず、R博士の著書を引用したから。
  ・陶酔=彼女との秘密が守られたから。
   ↓
  ・恐ろしい笑い
   ・真実を曲げて秘密を守りきった満足
3.N博士が実測する。

 ・「ちょうど二・一七メートルです」
4.R博士の反応
 ・蒼ざめて、頬が引きつる。
 ・錯乱する。
 ・怨嗟の目で見つめる。
 ・「裏切りおったな」
  ・二人の秘密を破った。
5.N博士の反応
 ・故しれぬ恐怖に打たれる。
  ・アフロディテ像が三㎝成長した。
 ・R博士の錯乱のほうが信じやすい。
  ・R博士が妄想を抱いている。
6.R博士の死
 ・異教徒
 ・恐ろしい死に顔




2つ目の質問の焦点は、R博士が愛した「アフロディテ像」。博士と像の関係がこの小説の中心になるのだから当然の設定といえるだろう。
台座の上に立っているのは、大理石のアフロディテの像である。十年前、ローマ近郊の発掘に当たって、博士がこの像を発見した。その発見は近代の奇跡であった。像はローマ国立美術館に納められた。十年来、週に一度、この大理石像に会うために老博士は美術館へ通った。病の篤いことをきいて、美術館は特例をもって、像に最後の対面をさせるために、それを博士の病室へ運んだのである
室内の薄明のなかに、アフロディテの像は白い模糊たる形態を浮かべている。右腕が失われているほかは、ほとんど完全に原型を伝えている。その目は羞恥のために半ば伏せられているが、それがあたかも病床の博士を、冷ややかに見下ろしているように見えるのである
 R博士は、手をさしのべて、あわただしく本のページをめくるような仕草をした。死がせきたてているので、日頃の落ち着いた挙措は失われている。辛うじてこう言った。
「私の著書を、私の著書を……。」
N博士はモロッコ革にフィレンツェの捺金の細工を施した大部の一冊をとり上げた。
「読んでくれ、百七十ページだ、早く。」
N博士は若々しい声で、日覆いのわきから漏れる光の下へ、ひらいたページをさし出して、読みはじめた。
「…………………………。
かくてわがアフロディテについて語る段階に至ったことは、著者の無上の喜びである。これこそは二十世紀に入って発見せられたギリシャ古典時代の唯一の傑作であり、優雅と品格において、クニドスのアフロディテに匹敵するものである。比類なき優婉は、一抹の神秘と悲哀を宿し、神聖と官能のえもいわれぬ一致は、プラクシテレスの原作たるを疑わしめない。これはローマ時代の最上の模作であり、また今のところ、残された唯一の模作である。この無上の美については、ただわが目に見た者だけがこれを知り、いかなる言葉をもってしても、それが与える感動を他人に伝えることは不可能である。しかもローマの古い土中からこれを発見し、近代の人間にして最初にこの至上の美に直面した者の戦慄を想像されたい

さて像の高さは、二・一七メートル……。」

 生徒が作った質問は次の通りである。

番号 レベル 質問
1 1 アフロディテ像はいつ発掘されたか。
2 アフロディテ像いつ頃できたか。
3 アフロディテはどこから発見されたか。
4 1 アフロディテ像を作ったのは誰か。
5 1 アフロディテ像はどのような形態をしているか。
6 4 アフロディテ像とは何ですか。
7 像は何でできていますか
8 3 アフロディテ像の美術的価値は。
9 2 アフロディテ像は優雅と品格において何に匹敵するものであったか。
10 4 アフロディテ像はどんな顔をしているか。
11 アフロディテはほとんど完全体ですが唯一失われている部分はどこか。
12 4 なぜ右腕がないんですか。
13 6 アフロディテ像を図示せよ。
14 1 アフロディテ像の高さは。
15 R博士や博士の著書においてアフロディテの背丈は何メートルか。
16 1 アフロディテ像はどこに納められているか。
17 4 とうやって博士の病室にアフロディテ像を運んだのか。
18 1 博士を冷やかに見下ろしているように見えるのはなぜか。
19 アフロディテ像はR博士のことをどう思っているのか。
20 4 アフロディテ像とR博士の関係性は。
21 アフロディテ、R、N、三島由紀夫,結婚するならだれ。

アフロディテ像をいつ、誰が作ったかよりも、いつ、誰が発見したかが問題になる。
さらに、博士と像の関係性。それについて質問した19・20は鋭い。21の質問もすばらしい。
像の高さがこのあとの展開の鍵になるので14も必須の質問になる。
そして、18は今後の展開の伏線として絶対に抑えておく質問である。
まとめの板書は次の通り。

○アフロディテ像
 ・十年前に、ローマ近郊で、R博士に発掘された。
 ・右腕が失われている以外、完全な原型を伝えている。
 ・「像の高さは一・一七メートル」と記述
 ・R博士が病床なので博士の病室にある。
 ・病床の博士を冷ややかに見下ろしている。


1つ目の質問の焦点は「R博士の人物像」である。
小説において、登場人物の人物像を読解するのは基本である。
次の部分から、質問づくりをする。

R博士はドイツ人で、ライン流域のデュッセルドルフの人である。永くイタリーに定住し、そのおびただしい著作の数は、古代彫刻の権威の名に背かない。
八十三歳の博士は今、臨終の床にある。しかし病褥に近づくことを許されているのは、美術愛好家の若い真摯な医者N博士一人である。
R博士の住居は、ローマ市ルドヴィシ通りにある。ここは古ローマの都門を残すボルゲーゼ公園に近い閑静な一画で、博士のアパートメントは四階の三部屋にわたっていた。
ローマの五月は暖かいというよりも、暑いと言ったほうが適当なほどである。強烈な明るさが遍満し、人々は街路樹の深い木陰を選んで歩く。蜜柑水を売る者が町角に車を出し、空は終日雲の陰をとどめない。廃墟の上にはおびただしい燕がとびかわし、幾多の古い泉は豊かな清水を装飾の彫像の全身に浴びせている。博士の住居の近くにはローマの泉の源といわれるトリトンの泉がある。また名高いトレヴィの泉に、ローマ離京の前夜貨幣を投げる者は、生涯のうちに再びローマを訪うめぐりあわせになるという口碑がある。
博士はこの泉に貨幣を投げたことは一度もない。その必要を認めなかったからである。ローマを終生離れない運命を自ら選んでいたからである。
病室の窓には午後の日が真っ向から射している。日覆いが下ろされて、室内は暗い。しかし枕もとの水差しの水はたちまちぬるみ、博士の額には汗が拭われるそばから微かににじんだ。
死に瀕している荘厳な顔は、強い髯の中に埋もれている。深い皺も、高い倨傲な鼻も、落ちくぼんだ眼窩の底に微光を放っている瞳も、大地の起伏を圧縮したように静かである。近づいている死の兆しの、もっとも明瞭に刻まれた部分がある。それは胸の上に置かれた手である。弾力を失った静脈が、手の甲を縦横に走っている。しみの多い白い皮膚がこの静脈の形を、無力に、しかし正確になぞっている。この形骸だけになった手の内部には、生命はすでに失われているように思われる。


読み取らせたい部分は下線部である。そこを問う質問を作らせたい。
生徒が作った質問は次の通り。


番号 レベル 質問
1 2 Rは何の略か。
2 1 出身はどこか。
3 4 何人か。
4 3 住居はどこか。
5 1 長く定住した場所は。
6 1 アパートは何階か。
7 1 住居の近くにある泉は。
8 1 なぜトレヴィの泉に貨幣を投げなかったのか。
9 1 (泉に)投げるものは何を投げ、何を望んでいるのか。
10 4 なぜ終世ローマを離れない運命を選んだのか。
11 3 顔が書けるか。
12 1 顔の特徴は。
13 3 どのような状態か。
14 4 病名は。
15 3 生命はすでに失われているとはどういうことか。
16 1 最も死の兆しを表している身体の部分はどこか。
17 3 R博士の手とは。
18 1 手はなぜ(死を)明瞭に刻んでいるのか。
19 4 病室の窓はどの方角にあるか。
20 1 博士の病褥に近づくことを許されているのは誰か。
21 4 なぜ病褥に近づくことが許されているのはN博士だけなのか。

レベルについては不適切なものが多いが、
「2・3出身」や「4・5定常場所」や「12顔の特徴」は期待していた質問である。
「8なぜ貨幣を投げなかったのか」は聞きたくなる質問だが、定住の覚悟を問うだけの質問で、さほど重要ではない。
欠けている質問は、「何歳か」「仕事は」である。年齢が83歳であることは、博士が臨終間近であることを読解するのに必要だ。仕事が古代彫刻の権威であることは、イタリアに定住を決意した事と関連する。これを【L3】に転換すると「なぜイタリアに定住を決意したのか」になる。
そんなことを解説しながら、板書してまとめる。

登場人物
 ●R博士
  ○ドイツ人
   ↓
  ・イタリアに定住
   ・トレヴィの泉に貨幣を投げ込まない
   ・ローマを終生離れない運命を選ぶ
   ↓
  ・古代彫刻の権威
  ○八十三歳
   ↓
  ・臨終の床にある
  ○荘厳な顔
『たった一つを変えるだけ』の「質問づくり」を、3年の現代文、三島由紀夫の小説「美神」でやってみた。
 現代文の授業の目的は、もちろん読解力をつけることである。それなしにいくら華々しいイベント授業をしても仕方がない。「質問づくり」を使って読解力をつける、これが今回の授業のミッションである。質問を作ることによって次のような効果が期待できる。
・文章を精読するようになる。
・文章からどんなデータを取り出せるかを学べる。
・読解するのに重要なポイントが浮きでてくる。
・ポイント相互の関連性が把握できる。
 そのために、元の「質問づくり」を少し改変した。
 Ⅰ 質問の焦点になる部分を提示する。
 Ⅱ 質問を作り出す。(5分)
  ①思いついた質問を、B8のカード(反故紙の裏紙)に書き出す。
  ②質問の形で書く。
  ③質より量、どんどん書き出す。
  ④チームで交流する。
  ⑤話し合ったり、評価し合ったり、答えを言ったりしない。
 Ⅲ 出てきた質問をレベルに分類する。(5分)
 【L1】近くにある部分を抜き出すだけ。
 【L2】やや遠くや複数の部分から抜き出す。
 【L3】文中の語を使って答える。
 【L4】自由に考える、決まった答えはない。
 Ⅳ 分類した質問の中から3つの質問を選び、A4の紙に書き出す。(5分)
 Ⅴ 黒板に張り出し、質問を吟味する。(10分)
・Ⅱでカードに書き出したのは記録係が書く時間を短縮するためである。
・Ⅲのレベル分けは、【L1】【L2】が閉じた質問、【L3】【L4】が開いた質問に相当する。質問  の難易度の指標になる。
これだけで、慣れれば多少短縮できるにしても、20~30分かかる。とすれば、1回の授業で1つの質問づくりをするのが精一杯である。そういうことは、質問の焦点を絞らなければならない。この教材は4時間の配当を考えているので4問になる。絞るためには、教材を熟読しなければならない。深い教材研究が必要になる。全体を読んで適当に質問を作りなさいという丸投げや、思いつきの質問では授業は成立しない。
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